今回展示するものは、昨年8月から今年1月まで約5ヶ月間の期間を費やして、総合文化部が制作した骨格標本です。
↓骨格標本制作過程の取材記事はコチラから↓

▲写真提供:オホーツクミュージアムえさし
まずは、展示パネルの作成です。
周囲の展示壁に雰囲気を合わせるため、白地の展示パネルに木目調の板を重ね、釘を打ち込み固定します。

▲写真提供:オホーツクミュージアムえさし
出来上がった展示パネルを起こして組み上げ、骨格標本を展示するスペースを作っていきます。

▲写真提供:オホーツクミュージアムえさし
次は、骨格標本を展示パネルへの取り付けるための下準備として、骨格標本の台座に加工を施していきます。

▲写真提供:オホーツクミュージアムえさし

▲写真提供:オホーツクミュージアムえさし
電動ドリルで骨格標本の台座に小さな穴を開け、そこに金属の長いボルトを通してナットで固定します。

▲写真提供:オホーツクミュージアムえさし
「見る人は、大人だけではなく、身長の低い子供や目線が下に行きがちな高齢者の場合もあります。」
「見る人の視線をしっかり考えて展示を作りましょう。」という臼井学芸員のアドバイスのもと、高校生たちで自発的に考えながら展示のレイアウトを決めていきます。

▲写真提供:オホーツクミュージアムえさし
相談して決めたレイアウト通りに、展示パネルに骨格標本を取り付けていきます。

▲写真提供:オホーツクミュージアムえさし
一つ一つ、丁寧に取り付け作業を行い、高校生たちが製作した約20体の標本をはじめ、およそ30体の骨格標本が展示されました。
今回展示を行った内の一つである、「ハイタカ」の骨格標本。
“枝幸町内の家屋に激突し”命を落としオホーツクミュージアムえさしに運ばれた「ハイタカ」を、部員が骨格標本にすることになりました。

▲ハイタカの骨格標本(左下)
ハイタカの骨格標本を制作したのは、部長を務める新井田愛莉さん。
解剖し、肉を取り除くところから、骨の組み立てまで、一連の作業を全て担当しました。
新井田さんは”ネコ”や”セキセイインコ”など、自宅で動物を飼っている動物好き。
獣の匂いには慣れていたため、皮を剥ぐ作業に対してはある程度耐性があったとのこと。
しかし、解剖する中で内臓を取り除く作業はとても苦労したそうで、辺りを漂う解体中の匂いに馴染むことができないこともあったそうです。

▲昨年5月、野鳥観察を行っている様子(枝幸高校HPから引用)
そんな、初心者には敷居の高い骨格標本制作ですが、「骨格標本やってみない?」と部員に声かけしたのは、新井田さんだとのこと。
昨年の5月に山林で野鳥観察を行った際、オホーツクミュージアムえさし学芸員の臼井さんと話す機会があり、その時に初めて「骨格標本」という言葉を知り、興味を持ったそうです。
骨格標本を見たことも、触れたこともない新井田さんにとって骨格標本制作は、未知の世界。
普段は体験できない、”新しいこと”にチャレンジしてみたいという思いがあり、提案したと言います。
新井田さんが担当した「ハイタカ」など鳥類の骨飛ぶために徹底的に軽量化されているためとても弱く、力を入れると簡単に折れてしまいます。
そのため、皮を剥ぐ作業や肉を削ぐ作業の中で誤って骨を切ってしまったり、折ってしまったりと、最初は失敗も多かったとのこと。
制作回数を重ねるごとに上達していき、最終的には、学芸員の臼井さんも驚くほど綺麗に皮を剥げるようになったそうです。
「ハイタカ」を解剖する中で新井田さんは、「鳴管(めいかん)」という、鳥が鳴くための発声器官を見つけました。
見つけた時は、「こんなものあるんだ!」と驚いたと言います。飼っているセキセイインコがなぜ綺麗に声を発することができるのか、ここで経験的に学ぶことができたそうです。
「制作する中で感じたことは、”外見だけでは分からないこともある”ということです。実際に動物を解剖して中を見てみると、想像と全く違う部分もあり、滅多に経験できないことを体験させて頂いた臼井さんに感謝しています。
ぜひ、みなさんにもこの骨格標本を見て頂き、”新しい発見”を体験して貰えたら嬉しいです。」と新井田さんは言います。
「今後も、総合文化研究部でいろいろなことにチャレンジしてみたいです!」と、気合の入った意気込みを見せていました。
今回の骨格標本制作の講師を担当した、オホーツクミュージアムえさし学芸員の臼井平さん。
骨格標本制作は、動物の死体と向き合うので、初めて行う人にとってはとてもハードルが高く、途中で部員達が挫折してしまうことを心配していたそうです。
一人ひとりが、いきなり各自1頭ずつの生き物と向き合うような標本づくりになってしまっては、もしかすると挫折してしまうかもしれない・・・。

▲昨年8月、イルカの解体を行う様子(枝幸高校HPから引用)
そう考えた臼井さんは、最初はみんなで一緒に制作出来るよう、大きいもので骨格標本を作成しようと考えていたそうです。
そんな中でタイミング良く、体長1m程の「イシイルカ」がミュージアムにやってきました。
枝幸高校の1年生が枝幸港で釣りをしていた時に発見したものでした。
このイルカを材料に、部員たちは共同で作業を行い、お互い励まし合いながら「総合文化研究部」の第1号となる骨格標本にしていきました。
最初は、臼井さんの指示を聞いてから動いていた部員たち。
「委縮せずに”とりあえず、手を動かしてみること”が増えてきて、段々と、自分から積極的に動く様になった。」と臼井さんは言います
最終的に部員たちは、図鑑・インターネット等で調べながら自分で考え、自分で学び、楽しんで制作を行う様になり、
8回の骨格標本制作の中で、見違えるほどの成長を見せていました。
臼井さんは、部員たちが制作した骨格標本の見所について、
「失敗(努力の跡)を見てもらいたいです。プロが作ったものは、その標本が死んだ理由となった「骨折」の痕などをきれいに補修したりします。当然ですが製作者が失敗した跡もありません。しかし、完璧ゆえに標本になる前のストーリーが消えてしまいます。
一方で高校生たちが作った標本は、死因となった「骨折」の痕や、生徒たちの失敗の跡を、あえてきれいに補修したりはしていません。その「不完全さ」が標本の魅力を引き出します。
「粗さ」はあります。けれど、その「粗さ」が標本になるまでの一つ一つのストーリーとなり、見ている人の想像力を掻き立てるものとなっているのだと思います。」
と答えます。
また、「標本は伝え方が重要」だと臼井さんは言います。
上の写真の骨格標本は、半分剥製、半分骨格標本というスタイルで作成しているため、骨格だけでは難しい鳥の種類の違いを見分けることができます。
また、生きているときの動きも、活き活きと表現することができます
上の写真の骨格標本は、「ネコとネズミ」。
ネズミの死因は、ネコに背中から襲われたとのこと。
そのため、ネズミの肋骨と手の一部は欠けてしまっています。
しかし、あえて補修しないことで「死んだ理由」のストーリーを表現し、見ている人の想像力を掻き立て、より面白みのある展示物となっています。
「《地域のひとと一緒に、地域のものを使って、地域の博物館の展示をつくりあげていく。》こうした過程を経て作られたものは、”枝幸”でしか見れないオリジナルのものです。
地域の資源を使い、地域に還元していくことこそ、ローカル博物館のとても大切な使命であると思います。」
と臼井さんは言います。
今回展示された骨格標本は、今後、ずっと残る常設展示です。
これから、キャプションや、制作風景などの写真も貼られ、より深みのある展示となっていくとのこと。
骨格標本を見た方々は、「え!これ本物なの!?」「いつも見る骨と違うから驚いた。」「動物の中ってこんな風になっていたんだ!」など、「とても面白い!」という反応を見せていました。
普段見ることのできない動物の骨からは、色々な発見があり間違いなく楽しめると思いますので、興味のある方はぜひオホーツクミュージアムえさしへ足を運んでみてください!
地域を学び、地域に貢献する「総合文化研究部」と、地域に根差した活動を行う「オホーツクミュージアムえさし」。
両者の活動について、今後も追いかけていこうと思います!
枝幸町地域おこし協力隊 杉村
取材協力:オホーツクミュージアムえさし 臼井平学芸員、枝幸高等学校総合文化研究部 顧問 山根若葉教諭 部長 新井田愛莉さん